新聞連載コラム「商いは芸」
新聞連載コラム「商いは芸」2005年9月13日号
近所に、非常に悪口好きのおばさんがいる。
とにかく誰か捕まえては、亭主の悪口、嫁の悪口、近所の人の悪口と、悪口のオンパレードである。
人間社会、みなそれぞれに腹に据えかねる人のひとりやふたりはいるので、悪口はカンタンなストレス解消ともいえる。
しかし、その人の悪口は格別らしい。
話し始めてからずっと自分の気の済むまで、延々続くという。
うっかり捕まってしまってはと、みんな逃げていく。
かくしてそのおばさんの悪口の標的は、増えるいっぽうだ。
あの人もこの人も人の顔みりゃ、忙しくてと逃げていく 、と・・・。
しかし、あるときから、あまり町で見かけなくなった。あれだけ騒いでいたのに、と思ったら、なんと美容室のお兄さんという、絶好の話相手を見つけたのである。
美容室の前を通ると、手が空いていようがいまいが、目当てのお兄さん相手にちょこちょこっとしゃべる。
するとカッコイイお兄さんが、にこっと微笑んで頷いてくれる。これで気が済んでとっとと家に帰るようだ。
もちろん頻繁にカットしたり、なんだかんだとやってもらっているうちに、身なりもずいぶんとこぎれいになった。なにやら機嫌まで良さそうである。
どうやら、美容室のお兄さんの魔法が効いたようだ。
自分をキレイにしていることでまわりの人に前ほど、腹がたたなくなったらしい。
悪口を言わなくなった分人から嫌がられることもなくなっていくだろう。
髪形ばかりでなく、お客さんの心まで、きれいにしたみごとな 〝商いは芸〟 である。
